自分の障害を知ってもらう努力を惜しまない。それがやがて自分の居場所を作る。

Interviewer Yuki
手足の運動機能障害と言語障害があるリトルミィさん。得意なパソコン操作のスキルを活かし、図面や3Dデータなどを用いて治具の設計などを手がけるCADオペレーターという仕事をしています。言語障害による影響で舌と唇で上手く音を作れないため、人との会話では何度も聞き返してもらうことが多く、職場でも“同僚とのコミュニケーション”に苦労することも。諦めずに自分という人間や自身の障害について、周囲に知ってもらう工夫と努力を続けたことで、以前よりさらに仕事を任せてもらえるようになったそうです。障害を臆せず、積極的に人と関わることで築いた自分の生きる道。その行動力と想いを取材しました。(取材2020年12月16日)

-【Yuki】本日はよろしくお願いします。まず、リトルミィさんの障害について少し教えていただけますか?

-【リトルミィさん】低酸素脳症による四肢運動機能障害(上肢1級、下肢2級)と、言語障害、診断がつくほどではないのですが、少し高次脳機能障害があります。

言語障害は構音障害です。咀嚼(そしゃく)が上手くできない、つまり舌と唇で上手く音を作れないため何度も聞き返してもらって、あとは相手の想像力で会話を連想・補ってもらうレベルになります。相手の慣れによるところが多いです。

また、日頃外出するときと会社では、車いすを使用しています。支えがあって数メートルなら時間をかければ歩くことができますが、不安定で転びやすく実用的ではありません。家の中では膝をついたりして移動しています。

仕事探しでは自分の強みを積極的にアピール

(アビリンピックでの様子)

-【Yuki】現在はどんなお仕事をされているのでしょうか?

-【リトルミィさん】仕事は3DCADのCADオペレーターをしてます。主に部品のモデル化をし、それを用いて治具の設計・検討をしています。緊急案件で「これモデル化して」とか、「今までとどこが違うか調べてくれる?」というような業務もしばしば。検討したモデルから図面を描くこともあります。

勤務は平日週5日、1日8時間です。フレックス制がある会社なので、残業した分早く帰れる日もありますが、ときどきお腹を空かせながら残業してます(汗)

-フレックス制を自由に使えるのはいいですね。

-そうですね、主に仕事が早く終わってすることがなくなったり、役場へ手続きしに行かなければいけないときに使っています。

-今のお仕事はどのように探しましたか?

私はハローワーク主催の障害者合同面接会に行って探しました障害内容だけで見れば、障害はかなり重いうえに、書類選考の時点で”言語障害”の文字で敬遠されるのを感じていたので、説明会で会社の方と直接お話して履歴書を手渡しするようにしてました。

行動力がありますね!何社くらいに履歴書を提出されたのでしょうか?

-今の会社には転職で入ったのですが、デザイン系の会社には3社、事務職の求人には6社に提出しました。前職ではデザイナーとDTPオペレーターとして働いていたので、その実績をかたちにするために、お金はかかりましたが作品集のポートフォリオを作ったんですポートフォリオは事務系の募集に対しても積極的に出していました!ポートフォリオを提出した目的は、”色々なことができるし、覚えることもできます!”という自己アピールだったのですが、そのおかげで今の仕事があると思っています。実は今の会社は、応募の段階では事務職で応募していたんです。でも会社の方からこれだけ色々できるならCADもできるんじゃない?と言ってくださったので、最初の一年は契約でOJTで教わりながら様子見で働いていました。

-前職ではデザイナーのお仕事もされていたんですね。このような職種のお仕事を目指したきっかけは?

-大学卒業の段階でなかなか就職が決まらなくて。重度の身体障害に加えて言語障害もあるので、その情報だけだと「より障害が重いのでは?」と思われてしまうみたいで。事務職だと選考を通過するのが本当に厳しかったんです。だから親としては、大学卒業後は障害者職業能力開発校でアクセスとかVBAなどを覚えてほしかったみたいです。でも、訓練校で覚えられるのは書類作成の要素が大半で。入力作業っていうのかな、そのあたりのスキルはもう高校で身につけていたので、私としてはその先のことを学びたかったんです。妹が商業デザインの勉強をしていたこともあって、アドビ系のソフトなら教えてあげられる、と言ってくれたのでデザイン系の学科に進みました。

子どもの頃からパソコンをよく使っていたのでソフトの操作の勘は身についていたんです。最初は子ども向け知育ソフトから始めて、小学生のときは簡単なホームページも作ったりしていました!なので訓練校ではデザインの方法を覚び、その後、デザイナーやDTPオペレーターという仕事を始めました。

会社を選ぶ基準、障害についての説明の仕方

-【Yuki】企業を選ぶときに譲れない条件はありましたか?

-【リトルミィさん】条件の1つは、前に働いていた会社のお給料にあまり満足していなかったので、それよりもらえること。親なきあと、一人でやっていけるようにお給料をかなり重視していましたね。私は障害者基礎年金を受給しているのですが、それはもしものときに使うものとして考えています。なので会社からのお給料で生活することを念頭に、納得のいく条件の会社を探しました。家族にはこの考え方での職探しは、身の丈違いだと散々言われましたけどね・・

2つ目は職場の立地です。前職の会社は都内にあり、通勤にかなりの時間をかけていたんです。毎朝渋滞のなか1時間半かけて運転することもあったりかなりしんどくて。でも、都内に住むとなると物価もアパート代も高いので、お給料に年金を足したとしても、とても車を維持しながらの生活はできませんでした。我が家は裕福なわけではなかったので、親を頼るという考えもありませんでした。地元はどこの市街地であっても、30分走れば田舎という土地が多くて、不便な土地でも車があれば暮らせる自信があったので、就職自体は地方であればどこでも良かったんです。雪が降らない地域であれば!

-会社に応募するとき、自分の障害についてどのように説明しましたか?

-トイレは手すりはなくても大丈夫ということや、自宅など狭いスペースなら壁づたいで歩けるということ。また会社では車いすが必要だけどゆっくりなら手すり付きの階段は上がれる。でも、周囲の人は見てるのが怖いかもしれませんといったように、相手が想像しやすいように、より具体的に説明しました。

言語障害については、面接官に”私の言葉は聞き取れていますか?文字起こしした方がいいですか?”って聞いたりもしました。合同面接では文字起こししたことはありませんでしたが、途中で相手にちゃんと伝わっているか確認するようにしていました。

高次脳機能障害については、医師から”診断のないものは選考のさいに言う必要はないよ”と言われていたので言っていませんね。ただし、高次脳機能障害とは書かずに、苦手なことや難しいこととして障害内容とその対処法を書き出したシートを自分で作成し、別で印刷して持参していました!

いいアイディアですね!

-ありがとうございます。自分の障害についてちゃんとわかっている、障害に応じてコントロールできるというのは大事だと思うんです。それに後出しジャンケンをしないためにも、障害については開示していました。障害を隠して働いていたら、仕事中に症状が出て困ったという話もよく聞くので、そういうところも含めて障害についてきちんと説明するシートあった方が良いのかなぁって。

シートの内容は、障害によるできないこと、障害があってもできること、配慮してほしいことなどをまとめました。例えば、私の場合、言語障害があるために電話対応は業務に差し支えそうと思ったので、配慮してほしいことに記載しました。頑張ればできます!と言ったことで、そこに関して配慮を受けずに働くことになり、苦しい思いをしたという話も聞いたことがあって。だから頑張ればできることは、できないことにして書いていました。仕事に差し支えそうなことは全部書いたかもしれません。

-就職活動だけじゃなく、アルバイトに応募するときにも役立ちそうですね!

自分が道を舗装すれば後の人のためになる

-【Yuki】会社のバリアフリーは整っていましたか?

-【リトルミィさん】ハード面で言うと、既に建て替えが完了しているところは部分的にバリアフリーになっています。完全にバリアフリーとは言えないかもしれませんが、減価償却の関係でまだ建て替えられない建屋などは待ちの状態です。時間はかかりますが、その分良いものへと少しずつ改修されていくのではと思っています。

学生時代に通っていた大学も、入学当初はバリアフリーではなく、私が在学中に徐々にバリアフリー化していったので、今でも、たとえバリアフリーでないところがあっても苦に感じることはありません。”自分が道を舗装すれば後の人が助かる”と思っています。

学校も会社も、最初の一人目が重要だと思っています。高校に入学する前も、過去に車いすの先輩がいて、その人の卒業年でようやくバリアフリー校舎になったという経緯を知っていたのもあるからかもしれません。大学が完全にバリアフリーになったのは私が4年生の時で、以来毎年車いすユーザーの学生が入学してると聞いて、すごく嬉しいです。最初の一人目の辛さはあるかもしれまれませんが、そんないいこともあると思えば、その経験も報われる気がします。

心のバリアフリーと言われるソフト面については、障害者となるとシビアな面もあるのでもっと周りを巻き込んでいかなきゃなと思っています。まずは私という人間と障害を、仕事を通して知ってもらうこと。その対策の1つとして地道にお菓子を配ってます(笑)残業の小腹を満たすために、お菓子をもらって嬉しくない人はいないと信じています。名付けてお菓子作戦です!

-残業中のお菓子は、人との距離を縮めてくれますよね(笑)そこでちょっとした会話も生まれますし。実際、入社当時と比べて理解は深まったと思いますか?

-なんともいえないですが、入社したばかりの頃より理解というより、認知は進んだというのかな。こんな障害者がいて言語障害はあるけど、筆談で受け答えはできる、というような認知は広がってきているのかなと思います。

お菓子作戦のようなコミュニケーションの目的は、障害者を嫌煙してる人へのイメージアップなんです。私達の仕事では設計担当者とのやり取りは自分でやらなきゃいけないので、一緒に仕事を進めることが多い担当者とはある程度仲良くしておいた方がスムーズに仕事を進めやすい。言語障害というだけで、関わりにくいとか、話しにくいという印象を持たれがちなので、コミュニケーションをとれるきっかけ作りになればいいなと思っています。実際、お菓子作戦で仲良くなった人もいて、最近は「これやってほしいけど手が空いてたらやってもらえる?」って指名依頼をいただくことも増えました。

ただやっぱり、障害についてはまだ誤解がある人も多い気がしています。例えば言語障害は物事を理解するのに時間がかかるとか意思疎通が面倒だとか思われがちで。上肢障害が重いので、仕事が遅そうとも思われがちです。

高次脳機能障害を抱えている人は手足に障害がない人が多くて、症状が重くなければ通院の配慮などで済むことが多いので雇用が進んでいる印象があります。ただ、脳疲労っていうのかな?疲れると思ったら鬱病になっていたという話も聞いたりするので、その辺の配慮が必要な気がします。

仕事で成果を出したい気持ちと、体調管理とのバランス

-【Yuki】リトルミィさんは高次脳機能障害について診断は受けていないということですが、脳疲労になる可能性についてお医者さんから注意喚起されたことはありましたか?

-【リトルミィさん】残業のしすぎはどうしても疲れてしまうので、注意するように言われています。それについては上司にも説明して理解していただいています。過去に毎日残業をして疲れ果ててしまった経験があるので、もうしないと心に決めているんです。今は疲れたら残業しない、週の残業は5時間以内に収めるようにしています。あとは市販の漢方を飲んだり、疲れを翌日に持ち越さない工夫を模索しています!夕飯が遅くなることで胃の疲れが脳にも影響している気がするので、フレックス制度も利用して、少し遅く出社したり早めに帰れるときは帰るようにしています。また、生理前がすごく疲れやすいのでその期間は仕事の進め方と休憩の取り方を気をつけるようにしています。

一方で、いくら残業をしないと言っても仕事でちゃんと成果を出したいし、同僚からも目の上のたんこぶにされたくない気持ちもあるので、そうならないように必死で努めています!会社からもきちんと成果を評価していただいているのは嬉しいです。

-どんなときに仕事をしていて楽しいと感じますか?

楽しいというか嬉しいのは、今まで散々助けてもらった地元に納税というかたちで恩返しできることですね。私、子どもの頃は地元の小さな総合病院に助けていただいたんです。脳低体温療法とか、ICUに入ったりリハビリを受けたり。当時は税金をたくさん使わせていただいたので、当時私を支えてくれた人たちの未来のために、今納税できるのはすごく嬉しい。今度は私が返す番です。

-とても大事なことですし素敵な考え方!これまで助けてくれた人や場所への恩返しの気持ちは忘れずにいたいですね。

仕事で工夫していること、コロナ禍での新しい働き方

-【Yuki】仕事をするうえで工夫していることはありますか?

-【リトルミィさん】今はコロナ禍でミーティングや進捗会議などは全てオンラインなのですが、デバイス越しだと声がよけいに不明瞭になり、私が話す言葉も伝わりにくいことがあるんです。なので、面画共有しながら私が説明する場面では、パソコン上にあるメモ帳を使ったり、虫眼鏡ツールでどこのことを指してるのか拡大したり。あと、意見を言う場面ではチャットで。画面共有中だとなかなかチャットを気にしてもらえないので悲しいときもありますが、私の状況を知っていて気にしてくれる人が一人でもいると安心します。話して説明するより倍の時間がかかってしまうけれど、使えるパソコンの機能をできる限り使いながら、より伝わりやすい方法で仕事に臨んでいます。

また、業務の工夫とは違うかもしれませんが、言語障害などコミュニケーションに障害がある人にとって自分を知ってもらうことはかなり重要かなと思います。先ほどのお菓子作戦のような機会を通じて、日頃から自分の障害について知ってもらうようにするとかですね。

察してもらえるのに越したことはないですが、言葉やコミュニケーション、心身に障害がなくても、言わなきゃ伝わらないことってたくさんあると思うんです。最近、察することが必ずしも良いことだとは思えなくなってきていますね(汗)

-そうですね。察する文化である日本とはいえ、どれだけ親しい間柄でも、相手のことを100パーセント分かるわけではないですしね。誤解を防ぐためにもちゃんと言葉にして伝えることは大切だと思います。新しい働き方を通して、他に感じることはありますか?

オンラインで仕事をする場面が増えたことから、私から情報を発信する面では、先ほどのようにチャットや画面共有などのツールを駆使することでやりやすくなりました。

ただ、情報の受信が難しくなったと感じています。メールやチャットなどでの意思疎通がうまくとれないことがあるんです。人は会話の中で”あれ”とか”それ”と言う言葉を使うことが多いと思うのですが、私自身、あれやそれという言葉を多用した会話を理解できないので、メールやチャットでもそういった話し方が多い人が相手だと、少し悲しくなります。さらに障害者=理解してないというイメージがある人だと、何かと毎回責められ口調で言われるのは辛いですね。気にしたら負けなのですが(汗)

-コロナ禍の影響で、働きやすさが増した人も多いように感じていましたが、そういった課題もあるんですね。ある企業では、コロナ禍で必要なスキルの1つは、“自分の考えを相手に伝わるよう言語化する力”だと発表していました。オンラインで人と繋がる時代に誰もが心地よく働けるよう、意識したいことですね。

プライベートはアクティブに

-【Yuki】プライベートはどんな風に過ごしていますか?

-【リトルミイさん】今はコロナ禍なのでテレビの録画を見たり、漫画や小説を読んだり、写真を撮りに出かけることもあります。近場ではありますが、神社などには今でも変わらず御朱印片手に巡っています。コロナ禍以前なら、遠出が多かったです。友達に会いに行ったり、日本酒を求め西へ西へ(笑)日本酒イベントで知り合った友達に会いに他県までに行くこともよくありました!また、休日はよく着物を着て出掛けたりもしていました。着物が好きな友人達とカフェやお花見に行ったり、街中であるようなイベントでは狐のお面を被り妖怪に扮したり…(笑)「見て見て、狐さんがいるよ〜」と言われると、楽しくなっちゃいますね。

-今後の目標や、この先実現させたいことはありますか?

-実現させたいのは旅行です。今はなかなか難しいですが、親を連れて家族で北海道やハワイ島に行きたいですね!

あとは終の棲家を買うこと!実家はバリアフリーではないし、駅も病院も遠くて。 せめてバス停まで、500mくらいのところに家がほしいです(笑)

 

-【Yuki】インタビューを終えて

自分の障害について人に知ってもらうのは、とても勇気がいることだと思います。相手にどう思われるかな、嫌われないかなと色々な不安が頭の中を駆け巡ります。しかし、自分の障害を打ち明け周りに少しずつ理解してもらうことができたら、自分が生きやすくなり、さらに自分の能力をもっと発揮できるチャンスもあるかもしれません。リトルミィさんの取材からは、そんな未来に一歩踏み出す勇気をいただきました!ありがとうございました。

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